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2010.2.09

トップアスリートインタビュー 第2回マーラ・ヤマウチさん Part2

Part1はこちらから

●日本と英国のマラソンの違い

――マーラさんはイギリス出身ということで、日本とイギリスのマラソンの違いはありますか?

結構ありますね。日本はマラソンがすごく盛んで、沿道の応援もすごいですし、大会の運営もしっかりしています。トップ選手のレベルも、全体的に日本の方が高い。イギリスにはマラソン女子の世界記録保持者のポーラ・ラドクリフがいるのですが、レベルの差が激しく、レベルの高い選手がほかに少ないんです。

それと、日本の市民ランナーは、速く走りたいからランニングしている人が多いと思うのですが、イギリスではここ20年くらいチャリティ募金活動がブームになっていて、その一環として走っている市民ランナーが多いんです。もちろんそれはそれでいいのですが、チャリティという部分に集中しすぎて、速く走ることを忘れている気がします。

●英国外務省で働きながらも持ち続けた夢

―――本格的に陸上競技をはじめたのはいつ頃?

大学に入学した18歳の時、ランニングクラブに入ったんです。ランニングが好きだったし、自分は長距離スポーツに向いているとは思っていたんですけど、ランニングクラブにしたのはたまたまでした(笑)。もともと体を動かすことが好きで、水泳、テニス、ホッケーなどいろいろなスポーツをやっていたので。

ランニングクラブに入って、友達がたくさんできて楽しくなり、タイムも速くなって、どんどんのめり込んでいきました。その頃は、クロスカントリーをメインに、3000メートル、5000メートル、10キロなどを走っていました。大学卒業後はトップ選手になりたかったんですが、そのレベルまで達していなくて、就職しなければなりませんでした。それで、英国外務省に就職したんです。今は練習に専念するために休職しています。

―――英国外務省で働いていた頃も、ランニングを続けていたんですか?

しばらくは仕事が忙しくて、本格的な練習ができませんでしたね。でも、小さい頃から抱いていた“オリンピックに出たい”という思いがあり、機会があれば本格的な練習を再開したいと思っていたので、ある程度のレベルが保てるように、軽いジョギングなどの運動は続けていました。

在日駐在員として日本に来ていた29歳の時に、“本格的にランニングをするなら今しかない”と決断して、任務が終わってイギリスに戻ったら、本格的に練習を再開することにしました。ランニングを始めるとしたら何の種目がいいかを改めて考えて、29歳から始めるとなかなかスピードが出せないので、持久力で勝負できるフルマラソンにしたんです。

―――小さいころから憧れていたオリンピックを目指し、フルマラソンへの挑戦を決意したんですね。

そうですね。11歳の時にロサンゼルス五輪でイギリス代表選手が金メダルを5個獲得したのをテレビで観て、漠然と憧れを持ったんです。その頃はまだ子どもだったので、実際にどうすれば出場できるのか、何の種目が良いのか全くわかりませんでしたが、とにかく、オリンピックに行きたいと思いました。

●英国外務省で働きながらも持ち続けた夢

―――そして、2008年に念願の北京五輪に出場。女子フルマラソンで6位の好成績を収めましたが、憧れのオリンピック、出場してみていかがでしたか?  

夢を実現できたことは大満足でした。もともと6位は、オリンピック女子マラソンのイギリス歴代最高記録(1984年ロサンゼルス五輪のウェルチ、2時間28分54秒)に並ぶベストの結果なんです。準備も万全で、いろんな意味で満足できたのですが、ひとつだけ悔しかったのがメダルを獲得できなかったこと。3位の選手とは22秒差だったから、100メートルないくらいの距離でメダルに手が届かなかったんです。99パーセントよくできたのに、最後の部分だけ足りなかったのは悔しかったですね。でも、大変楽しい良い経験でした。

オリンピックは世界で一番大きくて素晴らしいスポーツの祭典。でも、自分の競技に集中していたので楽しむ余裕がなくて……。将来引退したら、お客さんとしてオリンピックを楽しもうと思っていますよ。とりあえず今は選手として体を大事にして、競技に集中していきたいと思います。

―――2012年にはマーラさんの地元・イギリスでロンドン五輪がありますね。やはり、目指されているのですか?

はい。北京五輪の後は引退するかどうか迷いましたが、まだ上達している途中ですし、選手としてはまだ若いので、続けることにしました。自分の国でオリンピックに出場できるということは、めったにないチャンスですからね。引退して、自宅のテレビでロンドン五輪を観たら、“あぁ~出場すればよかった”と絶対に後悔すると思ったので(笑)。もうちょっと頑張ります!


取材協力: オアフクラブ多摩川

マーラ・ヤマウチ(まーら・やまうち) 
1973年英国オックスフォード生まれ。英国外務省1等書記官(休職中)。英国では、女子マラソン世界記録保持者ポーラ・ラドクリフに次ぐ、女子マラソン英国歴代2位の記録(2時間23分13秒)を持つ。オックスフォード大セントアンズ校で陸上を始め、04年にロンドンで初マラソン。08年北京五輪英国代表として6位入賞。2009年には、マラソン(2時間23分12秒)、ハーフマラソン(1時間8分29秒)ともに自己ベストを更新。02年に日本人の山内成俊氏と結婚した。